株式会社JEXS
 ◆コンピテンシーを人事管理にどう活かすか ~コンピテンシー礼賛論は危険な罠となる~

試みに営業マンの人事管理というキーワードでサーフィンすると、出てくるのは成果配分方式、業績連動型賞与、報酬管理という言葉が上位に踊っている。実際、生保、自動車販売、製薬、住宅販売、いろいろな業界で業績を重視した報酬管理、昇格管理、表彰制度が実施されている。このうち、私は、表彰制度はよいことだと思う。チームや営業所が一丸になって、キャンペーンを組んだりするやり方は効果もあるし、発奮させるのに役立つ。ただし、生保などを見ると、やりすぎの印象も否めない。架空の売上を作ってその後に解約したり、コンプライアンスに沿わない営業行為が横行している。

業績主義、成果方式の営業管理は日本で基本的に一般的と言えるのだが、弊害が多い。列挙してみよう。これらはほんの一部のことである。数え上げたらきりがない。私自身も営業を新人の時、3年間、経験した。

① 顧客志向の態度やマナー、ルールなどが軽んじられる懸念がある。
② コンプライアンスがしばしば破られてしまう。
③ 同僚間が過剰に競い合い、組織内に反目や対立、葛藤を生じてしまう。
④ 人材が育たないまま、離職率が高まる。
⑤ 業績の高い人材の阻害行動、例えばセクハラやパワハラに甘くなる。
⑥ 労働時間が管理できず、未払い残業代請求が起こってくるリスクがある。
⑦ 長時間労働が当たり前になり、過重労働で社員が疲弊する。
⑧ 追及的な会議が横行し、社員が上司や会社に実情を伝えなくなる。
⑨ 結果さえ出せばよく、手抜き行動をチェックできない。

一方、銀行や損保、メーカーの多くは固定給で業績は重視しているが、業績がそのまま報酬に直結しないようにしている。安定して高い報酬を保障しているので、優秀な新卒採用に成功している。実は、業績主義の営業マン管理をしている会社は、人気企業ではなく、多くがブラック企業と位置付けられており、人材の質が低く、悪循環を起こしていることを指摘しておきたい。日本を代表するエクセレント企業は固定給で、成果配分はやっていない。意外な事実かもしれない。

さて、営業マン管理をどう変革するか、私の意見を述べたい。また、急務となる提言を行ないたい。

① 労働時間管理である。営業マンは移動時間や待機時間等があり、実質的な有効労働時間が短くなりがちである。定時で終われない。しかし、時間外手当を払わず、営業手当、職務手当で処理するのは労基法違反で、摘発されたら、多額の未払い残業代が生じてしまうことである。営業マンにも、きちんと時間外手当を支給しないといけない。ただし、時間外勤務はお手盛りではなく、上司が命じたものが時間外勤務である。この辺の線引きが大事だ。未払い残業代は500人が年間1000時間やれば、試算すると36億円になる。会社によるが、破綻する危険性が高い。近年は労基署の立入調査が頻繁になってきている。叩き出されるように辞めた社員が労基署に駆け込んで半年後に会社が破綻したケースもある。

② 営業会議での追及をやめること。これは顧客情報が伝わらないことになるし、裁量のない人間にその責任を追及しているだけで、上層部や管理職の自己満足に過ぎない。成果主義的な目標管理は無意味で、営業マンを疲弊させ、そのうち燃え尽きてしまう。そんな人材集団では戦略展開もできないし、機動的な舵取りもできない。また、メンタルヘルスの問題を生じてしまう。社員が自殺したら、今は労災認定されることがある。過労自殺が認定されると、会社の支払いは数億円になり、これによって倒産した中小企業もある。社員の追及は慎重にやらないといけない。また、EQの高い、いい人材は追及を真摯に受け止めて辞めてしまう。

③ 時間外手当を原則、全部支給すると、今度問題になるのは賞与制度だ。これは営業職をコース制にするなりして分けて、寸志から最大6ヶ月などメリハリをつけないと処遇しきれないだろう。これは会社の実情に応じて検討すべきことである。

④ 時間管理、行動管理できない社員の減給、降格、異動、解雇もしないといけない。残業規制もしないといけない。そうしないと、有効性のある営業が展開できない。そこで、必要になるのが行動中心の評価制度である。基本行動が取れているかをチェックし、モニタリングし、それを人事考課の基本にする。米国ではこんなのは常識である。

⑤ 米国の場合、歩合制で働くセールスマンがいる。それは代理店のようなもので、雇用契約ではない。社員の場合は、セールスマンはいかに優れたプレゼンテーションをするかが評価の基準になる。結果は問われない。また、営業マネジャーも、営業マンの行動管理をきちんとしているかが人事考課の基準であり、数値責任はない。そして、数値責任を負うのは上級管理者である。数字を上げなければ、部長や役員が解任、解雇されるのである。末端の社員は関係ないのだ。日本は逆になっている。業績不振でも、上級管理者は平然とし、スタッフを入れ替えたらいいと考える場合が多い。

営業マン管理には検討すべき課題もあり、企業によって事情が異なるが、改革が急務である。とくに労働時間管理にメスを入れないと、経営破綻の危険性が迫っているのである。成果目標管理で固定給+成果配分というやり方は早くやめないと、大変なことが会社に起こる。

<行動評価尺度(抜粋)>
 
No. 系 統 項  目 定  義 レベル2 レベル3 測定方法
マネージャーとしてはやや不満のある行動レベル/好ましくないが、現状、当社に往々にしてありがちな問題のある行動レベル 現状、部分的に、到達しているが、今後めざしていく、望ましい行動レベル/マネージャーレベルにおいて発揮することが望ましいやや高い行動レベル
1 1 個人特性系 成果志向性 確かな成果を生み出すべく、そのために取り得るあらゆる手段を試み、結果を追い求めていく。 数字の達成に向けて、熱心に取り組んでいくが、攻め方はやや単調で、方法を変えてみることはいずれかというと少ない。そのため、後になって、「あの時こうしておけばよかったなあ」と悔やむことがある。
目標達成のための段取りや手はずが十分になされていないことがある。
数字について追及されて、「どうしよう」、「何とかします」など焦るばかりで具体的な手立てが十分でない。
時に、直線的なものの考え方になりがちで、とり得る選択肢を狭めている。
時に、指示に従って動くことが大切だと強く考え、成果が出なくても、上司の指示どおりに行えばよいと考えている。
確かな成果を生み出すべく、そのために取り得るあらゆる手段を試み、結果を追い求めていく。
数字の達成のために活用できることは何でも意識して取り組み、目標達成に向けて、段取りよく仕事を進めている。
ラインのマネージャー(直属上司や部門責任者)による人事考課や部門内におけるインタビュー
本部の関係部署による調査やヒヤリングによる評価
2 2 個人特性系 アカウンタビリティ/責任性・当事者意識 自らの責任を深く噛み締め、自分の立場や役割を自覚した当事者意識のある対応をしていく。 真摯な眼差しで会議に臨んでいるが、会議が終わるとほっとして、「月末は嫌だなあ」、「どうしたら数字は上がるかなあ」、「数字が上がったらいいのになあ」と考え、当事者意識はやや希薄で、他人事となっており、時に、評論家的になっている。
目標を達成できそうな時には、非常に強く責任を意識するが、どうにもならない時には、あきらめてしまう。
新規の業務やイレギュラーな業務が発生すると、自分の責任にはしたがらない。他部署や上司、部下に責任転嫁する。
自らの責任を深く噛み締め、自分の立場や役割を自覚した当事者意識のある対応をしていく。 ラインのマネージャー(直属上司や部門責任者)による人事考課や部門内におけるインタビュー
3 3 個人特性系 向上心/学習性 自分自身をより高めていこうとする強い意欲を持ち、貪欲に知識やスキルの習得に努めていく。 自分の経験に頼り、必要に応じて学習機会を設け、社外の勉強会・研究会・セミナーなどに参加したり、書籍などで知識を増やそうとする取り組みはやや不十分である。
担当業務以外のことにはあまり関心を持たない。
学習する内容に好みがはっきりと出たり、つい怠惰に流れたりして、本来習得すべき知識やスキルを身に付けていない。
自分自身をより高めていこうとする強い意欲を持ち、貪欲に知識やスキルの習得に努めていく。
担当部署や人材の情報の収集活動を常にしている。
さまざまな人と出会う機会をもち、社内外に情報ネットワークを持っている。
社内外のセミナーや研究会に参加したり、本や情報をよく読んで意識して情報を集めている。
調べる適切な手段を知っており、不明なことはすぐ調べている。
社内外の組織の中で、誰が何を担当しているか、どこに聞けばよいのか、決裁権は誰にあるのかを把握している。
ラインのマネージャー(直属上司や部門責任者)による人事考課や部門内におけるインタビュー
4 4 個人特性系 率先垂範/イニシアティブ 自ら率先して行動を起こし、周囲の模範となって刺激を与え、望ましいあり方を自然と示している。 問題があったとき、すかさず口頭で指摘するが、行動には結びつかない。どうするか具体的に指示されると、アクションをおこしていく。
失敗し、権威を失うのが怖くて行動できない。
つい怠惰に流され、部下から白い目で見られて内心恥ずかしい思いをしている。
時に、自ら進んで行動しようとはするものの、周囲の人は「何をしているのか」と冷ややかに見られる行動を取る。
自ら率先して行動を起こし、周囲の模範となって刺激を与え、望ましいあり方を自然と示している。
エネルギッシュかつ明朗に振舞う。
スピーディーでてきぱきした行動をしている。
積極的に関係先を回り、自分から挨拶し、メリハリある声で相手と話をしている。
周囲に活力を与えている。
接しているだけで相手を元気にさせる。
ラインのマネージャー(直属上司や部門責任者)による人事考課や部門内におけるインタビュー
5 5 個人特性系 役割認識力 上位者から示された方向性やビジョンを理解し、役割を意識して、組織の一員として有機的な働きをしていこうとする。
※3:ポイント提示力
上位者から示された方向性やビジョンを知ってはいるが、断片的である。
会社の方針やビジョンの具体化には今ひとつ関心を持っていない。
上位者から示された方向性やビジョンを理解し、役割を意識して、組織の一員として有機的な働きをしていこうとする。 ラインのマネージャー(直属上司や部門責任者)による人事考課や部門内におけるインタビュー
6 6 個人特性系 マーケット志向 市場動向やトレンドを踏まえ、そのニーズをつかむ企画や発想で新機軸を打ち出していく。 様々な機会を利用して、市場動向やトレンドを把握しているが、時代を先取りするものではなく、あるいは単に奇をてらったもので、顧客のニーズに合った新商品の開発や新事業の企画には十分繋がらない。できたとしても、時間がかかりすぎる。
時に、市場動向やトレンドの把握が不十分で、自らの経験値から企画を出して、新たな展開へ踏みださない。
また、何も考えず勢いだけで進もうとし、的外れなニーズのつかみ方で、何の役にも立たない企画を出す。
市場動向やトレンドを踏まえ、そのニーズをつかむ企画や発想で新機軸を打ち出していく。 ラインのマネージャー(直属上司や部門責任者)による人事考課や部門内におけるインタビュー
7 7 個人特性系 現状変革力 従来からある慣行や風土を把握し、望ましい方向性からそれを変革すべく、粘り強く働きかけていく。 新しい取り組みをやろうと熱意を示すが、粘り強さに欠け、三日もすると元に戻っている。
結局現状の延長線上の取り組みに終わっている。
また、現状を改善しようと提案はしてみるものの、すぐに結果がでないとあきらめてしまう。
従来からある慣行や風土を把握し、望ましい方向性からそれを変革すべく、粘り強く働きかけていく。
失敗を恐れず、変化に向けてアグレッシブに挑戦しようとしている。
楽観的で変化に耐える気概を持っている。
小さな結果が出たときでも、周りの人と成功を分かち合っている。
現状に甘んじることなく、建設的な観点に立って、批判的なものの見方をする。
ラインのマネージャー(直属上司や部門責任者)による人事考課や部門内におけるインタビュー
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