株式会社JEXS
 ◆行動ディメンションのクラスター分析と職務能力の類型化
    Cluste analysis on the behavioral dimension and building the type of job related abilities

1.問題意識と方法論の確認

行動ディメンションとは、アセスメント・センターで人材を評価する際に参照する基準であり、英語圏では8-12程度、日本では10-18程度でそれぞれ通説的に認識されている。本研究では経験的に確立された16の行動ディメンションを元に、115名の管理者を対象に実施されたアセスメント・センターによって得られたデータを分析した。とりわけ、本研究の狙いとして次のような点が重視された。先ず行動ディメンション間の関係を明らかにすることである。また職務能力の類型化を行なうことである。さらに実在者をいくつかのグループに分け、そのような能力傾向の異なる人物がどのような職務適性を持っているかを確認し、配置・異動の参考にできないか模索することである。

そこで、本研究では、アセスメント・センターの結果を、男女別、行動ディメンション別などに集計し、そのデータをクラスター分析した。既に別稿で行動ディメンションの因子構造は明らかにされ、5つの因子が確認された。それはそれぞれ、「問題把握」(因子Ⅰ)、「効果的な働きかけ」(因子Ⅱ)、「勇猛果敢」(因子Ⅲ)、「共感行動」(因子Ⅳ)、「責務感」(因子Ⅴ)と命名された。このような因子構造は順番が多少変わるだけで、主なものは他の先行研究でも指摘されている(外島、2001など)。しかし、企業の特性や職務内容、階層などによって異なることもあり、決まりきったものと断定するのは早計であると思う。因子分析だけではなく、異なる分析手法によってその構造を明らかにし、アセスメントそのもののあり方の変更、配置・異動などの人事実務への関連付けの仕方を考える際の参考にすべきである。

なお、アセスメント・センターとは、グループ討議、面接演習、インバスケット演習、プレゼンテーションなどを研修形式・ワークショップで実施し、そこで観察される言動を記録し、評定することで対象者の能力傾向を分析するプロセスである。従来から将来の幹部候補生の選抜などの目的で活用されてきたことが指摘されている(南、1996)。


2.行動ディメンション別のクラスター分析

行動ディメンション別にクラスター分析を行なったところ、次のようなデンドグラムが得られた。なお、設定はWard法、ユークリッド距離である。ここから読み取れるのは、意思決定系、個人特性系、対人影響系という3つの大きな括りであり、これは行動ディメンションが3系統で設定されていることが適切であることを裏付けている。もう少し綿密に見てみよう。


【図1】 行動ディメンション別のクラスター分析の結果

先ず、計画組織力、管理統制力がかたまりになっているが、これは狭義のマネジメント能力とされている。これら2つに問題解決力を加えた3つがやや広義のマネジメント能力ということになる。また要点は握力と問題分析力は1つのかたまりになっている。一方、決断力は独立した位置を示している。意思決定系の行動ディメンションはこのような3つのクラスターからなっていることが確認された。

次に、能動性とストレス耐性が1つになっている。アセスメントをする際、これらは独立している印象もあるが、両者は密接不可分ということになってくる。これら2つにイニシアティブを加えたところで、1つのクラスターがある。また因子分析ではいくつかのケース分析から独立性の高かった自律一貫性がここで加わっている。クラスター分析でも独立性が高いことが確認できる。

また対人影響系では、3つのクラスターを確認することができる。1つはコミュニケーション力と対人インパクト、そこに対人影響力が加わる。一方、柔軟性と対人感受性が1つのかたまりになっている。説得対話力が別個に位置している。

全体を通してみると、決断力が非常に特異な位置を占めていることが確認できる。問題を把握したり、対応策を考える能力とも独立した位置にあるし、むしろ個人特性と関連しているようだ。そこで、決断力が他の行動ディメンションとどのような関係にあるか、相関行列で確認してみた。ここから言えることは、問題解決力(.39)を除くと、あまり高い相関を持つものはないということであり、逆に対人感受性(-.28)のように負の相関を示す場合もあることである。

【表1】 行動ディメンションの相関行列(決断力)


3.実在者のクラスター化の可能性

次に実在者をクラスター分析した(平方ユークリッド距離、Ward法、得点を標準化)。その結果、10のクラスターが確認できた。これらについて行動ディメンションごとの平均得点、因子別の得点などを手がかりにそのプロフィールを描いてみた。表1では、クラスター別に行動ディメンションの平均スコアを示した。また表2では、クラスター別に因子ごとの平均得点を示した。これらから、クラスターに分けられた実在者群の特徴、行動パターンを解釈すると、表3のようになる。

【表2】 クラスター別行動ディメンション得点一覧

【表3】 クラスターごとの特徴と行動パターン

実はこのようなクラスター化はサンプル数がある程度そろった段階で可能になった。それ以前は個別に店舗向き、あるいは本部企画向き、本部サポート部門向き、専門職向きなどと個別的もしくは大雑把に判断していた。意思決定系など3つの系統での大まかな強弱以外は、16ディメンションの強弱によって個別のプロフィールを捉えるに留まっていて、配属や異動の意思決定には個人レポートを参照するしかなかった。似たタイプが誰か、置き換えるなら誰なのかを明確化することは人事担当の経験則によるしかなかった。

今回の分析によって、今後どのような人材を採用していくべきか、育成課題としてどのような問題があるのか、明らかにすることができた。とりわけ、低業績者の失敗パターンがわかり、人材情報として参考になった。もちろん、そうした実在者にどうフィードバックすればよいのか、どう能力開発させていく可能性があるのか、今後の課題として残ってくる。


4.討論と展望

本研究はアセスメント情報を元に分析を行なったものだが、対象人数はまだ全体の4割程度になっていることから、途上の状況にある。男女別、職務別(店舗、本部の各部署など)の情報をさらに集め、同様の分析を行なわないといけない。また人事考課情報を織り込んで分析する必要性も高い。層でなければ、解明できない点も多い。しかし、個人情報保護法などクリアすべき問題もある。ただ、本研究だけでもいくつかの成果を確認することができた。

先ず、設定している行動ディメンションのモデルはおおむね無理がないことが確認できたことである。3つの系統はもともと4つだったが、3系統という系統化が適当と次第に判断されるようになった。以前は、意思決定系のうち、計画組織力と管理統制力を「マネジメント系」と呼んでいた。また要点把握力とコミュニケーション力(口頭表現力)の2つで「コミュニケーション能力」と呼んでいたこともある。しかし、問題解決力を離れてこれら2つが機能することはありえず、意思決定系で括るほうが妥当である。また要点把握力とコミュニケーション力は因子分析でもクラスター分析でもあまり相互に関連しない。別個に考えるべきものだろう。

また実在者について具体的にどのクラスターに属しているのか、そのクラスターは平均像で見て、どのようなプロフィールなのかを明確化することができた。しかし、平均して10-15名程度分布している各クラスターの中でも高得点の者もいれば、相対的に低い得点の者もいる。そうした場合、上位群と低位群では明らかにプロフィールが異なっている。そのことも留意しなければならないが、留意すれば再び個別論になってしまう。実は別の組織体で得られたデータに関してクラスター分析を試みたことがある。しかし、そのときのクラスターはわずか3つで、「共感型リーダー」、「コワモテ型リーダー」、「ブレーン型リーダー」といったものだった。正直そこから人事上の意思決定に寄与する示唆は感じられなかった。

人事評価ではハロー効果の問題が指摘されながら、実際には非常に共上がり現象が見られ、一人の人物をプロフィールとして捉えるには不十分である。とどのつまり、よいか悪いか、できるかできないかの二分法になりかねない。できる人には無理を強いて何でもやらせることになりかねない。しかし、アセスメント・センターのもたらす情報は対象者のプロフィールを描いてくれる。さらに、これをクラスター分析すれば、タイプ化が可能となる。1つのまとまった職域、職務、職位に対してどのような人物像が望ましいのか、明確に思い描くことができる。逆にどのような問題上司、問題部下がいるのかが明らかになり、それを解決するための方策、彼らへの働きかけも明確になってくる。今後さらに調査分析を進め、人事情報の分析を行なうことが必要である。そうすることによって、多くの企業が多額の費用を割いて導入しながら活用度の非常に低いと思われる人事情報システムの運用や活用に寄与することになるだろう。

【表4】 クラスター別因子別得点一覧



参考文献
外島裕(2001)「アセスメント・センターのディメンション因子構造とパーソナリティ特性」日本性格心理学会大会論文集No.10(20010827) pp. 58-59 日本パーソナリティ心理学会
南隆男(1996)「キャリア発達の課題」三隅二不二・山田雄一・南隆男編『組織の行動科学』(福村出版)所収
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