株式会社JEXS
 ◆能力開発の新しい考え方-その限界を見極める視点の意義とは?

どこまでも伸びると考えることが悲劇の始まり

何年も前のことで、おそらく10年ほど前のことだと思うのだが、矍鑠(かくしゃく)とした楠田丘氏が講演の受講者の質問に答えて曰く、「能力はどこまでも伸びる。天を突くのです」と頭上を指差した。神々しく見える一瞬だった。しかし、今になって私はそんなふうに思わなくなった。人間の能力はそう伸びるものでもないし、なかなか変われない気がしてならない。むしろこのような能力観がどうして必要だったのかを考えるようになった。賃金と能力が連動するなら、賃金カーブとほぼ連動して「能力」も伸びなくてはならないだろう。しかし、職業上の能力がおそらく最も伸び盛りの20歳代、職についての数年はあまり昇給しないものだ。この不可思議はどういうわけなのか。そんな疑問も湧く。

能力開発とは実に美しい言葉である。しかし、同時にこの言葉にはどことなく重苦しさも立ち込めている。それはどういうわけだろうか。
日本では一旦採用してしまってその後に辞めてもらうというやり方を一般には採りにくい。慣例では試用期間があり、3ヶ月ないし6ヶ月は準社員扱いにして、その後に正社員となるという制度は幅広く採用されているが、これを厳格に適用している例はそう多くはないと思う 。というのも、せっかく入社しても半年ほどで辞めさせられるかもしれない職場に勤務したいとはあまり考えないからである。そこで会社は採用で苦労するのを避けるために、何人かに一人くらい問題社員がいてもどうにかして抱え込むし、その人が起こすトラブルや不都合は懲戒事項にでもならない限り周囲の同僚がカバーする。上司は時にその尻拭いに追われ、同僚は始終手直しやフォローに奔走する。ひどい場合はその人にろくすっぽ仕事をさせないまま、それでもどこかには置いておくという対応をしてしまうし、そうせざるを得ない。それが長年続けば職場にいてもいなくてもいいどころか、いないほうがいい人が1割や2割出てきて、その人のおかげで始終振り回されてしまうという現象が起こってくる。そんな実情があるのに能力開発を語られると、上司である管理職やそれを補佐する立場にあるキーマンはひどく意気阻喪となり、いい加減にしてくれと胸中では思うのである。

IT系の中堅企業で職場の問題についてインタビューを行ったときに、そこで出てきた話がある。管理職がほぼ口を揃えて言うのは、できる人とのコミュニケーションは全体の5%程度で、それも部下から言ってくるので、自分からは特に声をほとんどかけなくて済む。並程度の人は失敗どころがなんとなくわかっているので注意したり後押しするタイミングを考えて声をかけフォローする。これも何とかなる。できることならあまり頼ってくれるなと思うかもしれない。そして一番悩ましいのは報告や連絡、あるいは当然すべき相談を怠る人で、こういう人はトラブルが発覚してからその人が起こした問題が後になってから発覚する。管理職は自分の時間の半分近くをこういう人の尻拭いに追われ、部下とのコミュニケーションというと、こういうダメ社員とのやり取りや、終わりのない説教に7割以上の時間を割くというのである。部下を管理するコストを計算すれば、ダメ社員は上司のパワーを7割近くも使い、しかもそこから得られる成果はごくわずかなものに過ぎない。そしてこういうダメ社員は10人に1人か2人くらいなのだが、その人さえいなければ時間の使い方はすっかり変わるだろうと口を揃えて皆がいう。また何をやってもミスを起こす人に一体何を担当させたらいいのかを悩んでいる管理職も少なくない。コーチングの手法を習ったとき、それを誰に使うかというと、ダメ社員との話し合いが何より先決だと答える人が圧倒的に多い。できる人にはコーチングなど必要ないからである。

ダメ社員の取り扱いに関して米国のコンサルタントのボブ・マッケンジーは手厳しい。「まず余計な会議をするな、それはダメ社員のためにやっていることが多い。まっとうな人の仕事の半分はダメ社員の尻拭いなので、ダメ社員を減らすことが何より先決で、それによってミスもロスもなくなる。ダメ社員の存在がまっとうな人のやる気を阻害する」。私はこういう内容を書いているマッケンジーの意見にいたく共感し、メールを送ったところ、「米国ではダメ社員は職場での大きな問題になっているが、日本ではどうですか、経済大国日本のダメ社員退治を参考にしたい」いうことだった。これに対し、「ダメ社員を簡単に辞めさせる米国でそんな問題はあっても些細ではないか、日本ではダメ社員中心に職場が暴風圏にあることもあり、それでもダメ社員をどうにか立ち直らせるとか能力開発すればどうにかなるはずというと考える傾向がある。米国からの福音を待っているところだ」と私は答えた。ボブは「今後も情報を交換しながらダメ社員退治を一緒に考えましょう」ということだった。

人材育成の必要性を熱っぽく語る人事担当や経営者がいると、私はどうもこれらの話を思い出すのである。さりとてその可能性や必要性を否定しているわけではない。ただ、人間はそんなには大きく変わらないと考えたほうがいろいろな問題はクリアになるのではないだろうか。


できる人は若いときから違う

連合艦隊司令長官だった山本五十六元帥の言葉に「やってみて 言って聞かせてさせてみて ほめてやらねば 人は動かじ」というのがある。山本の部下の指導は、「自らやってみせる。その後に部下にやらせてみる。その上で言って聞かせる」方式で、自分ができもしないことは、部下に求めず、観念論ではなく、実践に基づく教育指導であったといわれている。ただし、この言葉は本来、上杉鷹山の言葉が元であり、実のところ山本の言葉かどうかさえはっきりしないといわれている。

ただ、ここで思うのは軍隊というと、できないことまで何とかしてやれと命令していそうだし、実際、敗戦間際には迫り来る米軍機を串刺しにする竹槍武装が進められていた。ここで竹槍では米軍機には届かないのではと言えなかったと思われる。ただ、このとき名将山本は既に亡くなっていた。時は現代、企業は成果主義を旗振りして結果を出せと強調するようになった。無理難題を何もかも「権限委譲」して結果だけを上役が待ち構えている企業が闊歩するようになった。

ところで、山本についてはほかにも逸話がある。鈴木貫太郎は、軍艦「宗谷」時代の山本について回想し語っている。「別段目立ちたる点なきも、寡黙剛毅、不撓不屈、真面目に勤務に当たり、不言実行をもって候補生を指導したり。時に指導官の会議にさいしても容易に発言せざりしが、一旦口を開けば論旨明晰、主張強固にしてその意見はおおむね採用せられたり。これをもってその熟慮断行の性格に富むを知るべきなり。余はこの青年将校こそ大器晩成、他日良将軍たるべきを信ぜり」。そして後年の山本について、鈴木は「元帥は多年航空方面の各級要職につき、航空部隊の建設教育に熱血をそそぎたるはもちろん、海上作戦に航空機を最大限に活用して、速戦即決を期し、すみやかに勝利を得るの途を考究し、常に新戦法を胸中に蔵して、極度に艦隊を訓練し、もってこれが実施の時期を待ちたるものの如し、これけだし古来名将の用兵と軸を一にするものなり」と述べているという。

山本は若かりし頃から頭角を現し、見る人が見れば、将来の「良将軍」、つまり優れた管理職だったということである。これは普遍的な事実で、入社3年か5年でこれぞという人はほぼその後ひっくり返ることなく活躍し、その時点で見込みの薄い人材はどうも活躍しないまま終わってしまうことが実証されている。長じて後の山本は、速戦即決や戦略的な考究、訓練の徹底など優れた点を兼ね備えていたというのだ。さらに忘れてはならないのは、大先輩である鈴木のように有為の青年を見るとき、そこに将来の将軍を見るという温かい人材育成の眼差しがあることだ。こういう先輩の目線と薫陶が十分にあるのか、この点も問うてみるべきだろう。

全員が全員、山本のように枢要のトップになる必要はないが、少なくとも並か並以上の仕事や役割を担うことは期待されている。しかし、3割ないし4割、場合によっては7割近くの人が期待水準に満たないと人材育成が進まないことを企業は嘆いてみせる。そこで、採用をどうするか、入社後の能力開発をどうするか、という問題を果てしなく議論し、仕組みづくりを考えることになるのである。


入社3年間が大事というのは本当か?

採用に関していい人材がどんな特性を持つのか、果たして思惑通りに行くのかに関しては、本誌でも「キャリア・ディレール」の問題として取り上げて解説を加えた。既に入社し十分に活躍している人の問題行動も多いに議論しないといけないが、今回はキャリア初期、つまり入社数年間の現象に焦点を当てて論議したい。

何らかの企業や組織に入社・入職し、キャリアをスタートさせることを組織エントリーという。一般に学校では専門知識や資格を得るための教育機会を得るだろう。しかし、新規に組織に参画し、職場の一員となるとき、全く新たな役割を与えられ、ある意味でそれ以前になかった人格をそこで形成する。このような新人としての期間が半年なのか1年なのか、あるいは3年程度あるのかは別にして生涯わたって重要な時期となるといわれている。ここでは上司の役割が非常に大きく、よき同僚との信頼関係を経験し尊敬できる上司に出会えば、仕事への愛着や組織との一体感、役柄意識、責務感、ルール遵守の行動スタイル、日常のコミュニケーション習慣(密な連絡、事前相談、経過や結果の報告)などを自然と修得し、それによって組織人としての基本行動を取るようになっていく。そこで躓くと、自分本位で身勝手な行動を取ったり、ルールや規則に無頓着になったり、同僚とのコミュニケーションを疎かにするようになる。慎重さを欠く専断的行為によって問題を繰り返すこともある。近年のように成果主義で個人単位での実績を追及するようになると、達成意欲や積極性が自分をよく見せたい顕示欲求に転化し、また組織順応的な行動選択を割に合わないと考える傾向が生じ、それによって非協調的、時に反組織的な行動がその人なりのパターンになって定着してしまうことすらある。

組織エントリーは受け容れる側の問題でもあるが、新人の役割を与えられる当事者の個人特性に帰する要因も無視できない。慎重性や規則性、親和欲求などの低さ、気分性、自尊心などの高さといった複合的要因から生じて来ると考えられる。情緒不安定な若者は増えており、気位が高く、内面では劣等感や自信のなさにさいなまれながら、外見では強気でわがままに振舞う傾向は全体としても強くなってきている。


「ほめたら伸びる」は本当か?

最近よく見かける話にほめる技術がある。心にもないことでもほめてうまく収まるのなら大いに結構なのだが、個人的には疑問も持つ。その前は叱る技術が大いにもてはやされていた。上述した組織エントリーにも関連するが、若者を見ると、親身になることを非常に求める傾向があり、依存性が高くなっている。その一方で今の企業は全般に薄情で、いつまでも親身になる傾向は以前と比べると少なくなっている。ほめることは効果的なこともあるが、組織エントリーのプロセスはほめることよりいずれかというと、まずは行動を強制し、ルールや価値観、上位下達による規律を叩き込むことである。それを疎かにしたまま、ほめそやすと、最悪は一触即発、炎上しかねない欠陥新人をこしらえてしまう危険性がある。ケースをいくつか付したので、指導事例として参考にしてもらいたい。


能力開発を考えるケース

次の各ケースは実在する人物が実際に取った行動を参考にし、事実関係や職場の想定を多少変えてケースにしたものである。これらは比較的典型的な人物像で、皆さんの周囲にも似た人物が実在していると思われる。


1. ミスを隠そうとする部下

あなたはマーケティング会社の企画部の課長です。いろいろな会社から市場調査やその他の様々な調査・分析の依頼があり、企画部は日々多忙です。あなたはつい仕事を全部自分で引き受け、溜め込んでしまいがちです。調査に関して単純作業は基本的には契約社員の方に依頼していますが、顧客との対応などはすべてあなたが行っています。調査というと正確性が問われ、数字によるデータを眺めることが多いため、時間もかかり終電近くで帰ることも少なくありません。また契約社員は5時で帰ってしまうので、その後は時に単純作業をあなた自身がやることにならざるを得ません。

最近営業から企画に移ってきた丸山玄太(29歳)が「課長、私何でもやります」と調子よく声をかけてきました。あなたは人手が足りないのと今後丸山さんが企画部で仕事をしていく上での基礎を身に着けるためにもちょうど良いと考え、丸山さんに仕事の一部を振りました。丸山は以前、営業部にいてなかなかの成績を上げているとのことでした。その分フットワークもよく仕事も割合早く覚えていきました。そのうちあなたは丸山さんを見込んで、一つの調査をまるごと任せるようになりました。少々不安もありましたが、「適宜わからないところや進捗があれば報告してくれ」と丸山さんに伝えました。

ある日、丸山さんに任せた調査先のヒューマンテクノロジー社から電話がありました。どうも丸山さんに調査のことで説明を求めたいということのようです。丸山は外出しており、仕方なくあなたは電話で内容を聞きました。話によると、以前調査してデータの数字にミスがあり、訂正を頼んでいたがどうなっているのかということです。詳しく聞くとミスは今回だけでなく、以前に3回もあったということでした。先方はご立腹で金額も払うのをためらう、今後の付き合いを見直したいなどと言っています。あなたは予想もしなかった電話に、何とかうまく説明し、今回だけは許してもらいました。日々丸山さんの熱意や熱血な性格は認め、よく話す人懐っこいところに好感も持っていますが、「定期的に調子はどうか?案件のほうはどうか?」と聞くといつも決まって「大丈夫ですよ。うまくいっています。」との単純な返事に戸惑いも感じながら、見過ごしてきました。まわりに状況を聞くと自分を含め、契約社員もそんな事態になっているとは知らなかったということでした。

あなたは丸山さんに今回のことを含め、緊急で話し合いをしないといけないと思い、5時に顧客先から帰ってくる丸山さんを待ちました。5時を30分ほど過ぎたころ、元気よく丸山さんが職場にもどってきました。あなたは空いている会議室で丸山さんと話し合いをしようとしています。

Q1.丸山の行動(職務行動)のどこが問題ですか?
丸山は、仕事上入力ミスをしていますが、それ自体、重大ともいえますが、それ以上に問題なのは丸山がそのことを些細なことのように認識していることです。顧客のクレームに対しても脳天気な対応で、上司であるあなたはあきれるのを超えていらだっていますし、顧客も不快感を露わにしています。

Q2.丸山の性格や資質特性、行動特性をどう分析しますか?
丸山は典型的な循環型の気質です。人当たりがよく明朗で活動的ですが、不注意で自分の行動についてどうもずぼらです。外向的な性格で、憎まれないのですが、今の仕事では支障も多く、不注意で楽観的なところは感受性の欠如と移ります。行動特性的には、計画組織力や対人感受性の欠如となるでしょう。ただし、気質的に涙もろい一面もあり、共感性は低くありません。

Q3.丸山をどう指導育成したらいいですか?
丸山の場合、かなり厳しく言っても堪えないほうです。なので、事実を確認しながら厳しく指摘すればいいでしょう。ただ、悪気なく聞き流すだけになる可能性があります。なので、具体的に今後の対応策を述べ、それを忘れないようにメモさせ、期日を決めて確認していくことです。
いつまでに顧客に対応するか、など当面の策を決めて実行することです。
また本人に考えさせることも大事です。
なぜ呼ばれたのか?
何が問題だと思うのか?
どうすれば適当なのか?
一方的に説教するのではなく、相手に考えさせ、見解を探ることです。
ただ、期限を決めて直らない場合は、適した仕事に異動させることも必要となるかもしれません。


2. 片意地で融通の利かない部下

あなたは名古屋支店総務課の課長です。当社は中堅の製薬メーカーで、造影剤などのほか、抗がん剤でも競争力のある企業です。名古屋支店総務課は総務、人事、経理、庶務を含む管理業務を全般的に処理し、支店にある営業各課(営業1課、営業2課、営業3課)の支援業務を行っています。新卒で入社して15年、あなたは管理部門、とりわけ総務を中心に職務を経験した当社の中堅社員です。今年で38歳。もともと本社総務部にいたあなたは3年前、課長に昇進し、名古屋支店で総務を担当することになりました。

ところで、あなたには、5人の部下がいます。総務業務を担当する青島光雄(入社10年目37歳)、経理業務を担当する島本浩二(入社10年目33歳)、庶務を担当する田村直樹(入社5年目35歳)、女性総合職で人事業務を担当する新宮悦子(入社10年33歳)、そして一般職で経理担当の岩佐麻弥子(入社3年目26歳)です。平均年齢も若く、業務の運営はおおむね順調です。しかしながら、あなたは新宮のことでは悩んできました。

新宮は大学を卒業後、当社に入社し、本社で3年ほど採用担当を経験した後は支店で人事を担当して来ました。支店の人事は支店独自の採用や契約社員の雇用管理、給与計算業務、資格取得支援などを担当しています。支店には派遣社員が10名ほど勤務しています。新宮は、負けず嫌いで粘り強く、几帳面な性格です。仕事には厳しく、意見が合わないと誰であっても激しく衝突し、一歩も退かないところがあります。また融通が利かず、物事に夢中になり始めると、それが終わるまで他のことは全く考えられないところがあります。新宮をめぐっては支店の各担当と確執、葛藤が絶えないのですが、新宮には自分の態度を改めようとする気持ちがどうもないようです。本人もストレスがたまるのか、体調は思わしくない様子で、気丈にはしていますが、顔色が冴えないことも多いようです。ところが、新宮自身から不調だとかという話は一切出てきていません。最近になり、新宮がますますヒステリックになり、激昂して怒鳴りつけるので、些細なことですら話がしにくいという苦情が出てきています。事実関係はどうもはっきりしません。

あなたは、定期的に部下と話し合う時間を持っており、今日は新宮と1時間ほど話し合うことにしました。1ヶ月ほど前、話し合った際、新宮にもう少し融通を利かせられないかと話したところ、「課長は甘いのではないか」と逆に追及され、話はほとんど平行線のまま推移してしまい、時間も十分に取れなかったために結論を出せませんでした。今回は支店各担当から出てきている苦情のために総務課の立場が危うくなっていることなどを話題にしようとあなたは考えています。

これから二人でじっくりと面談する予定となっています。

Q1.新宮の行動のどこが問題か?
新宮をめぐっては支店の各担当と確執、葛藤が絶えず、自分の態度を改めようとする気持ちがどうもないこと。

Q2.新宮の性格、資質特性、行動特性はどのように分析できますか?
新宮は典型的な粘着気質の性格です。努力型とも言われ、自分が決めたことにはとことんこだわる一徹なところがあります。
几帳面で粘りがありますが、反面、怒りっぽく、融通が利きません。このような性格は仕事に関して長所にもなりますが、柔軟に対応したり、相手に合わせて対応を変えるのは苦手です。

Q3.新宮を指導育成していくにはどうしたらいいですか?
基本的にまじめな性格なので、新宮に合った仕事の与え方を考えるほうが現実的です。柔軟さを求めてもなかなか難しい面がありますし、ぎこちなさを残します。
私の知っている人でも数人の人をすぐに思い出します。男女ともいますが、ある女性は管理部門の仕事、たとえば経理などでは適性を持った人がいました。その方の担当は経理で、とにかく杓子定規で、ルールを破った人にはところ構わず怒鳴る人でした。怒りが抑えきれない様子でした。周囲が止めに入るまで職場で怒鳴っている人でした。しかし、まじめで仕事はきちんとしているので、注意しにくく、何年もその行動は改まることがなかったです。

ある男性は、金融関係の人事担当を経て独立しました。思い込みが激しく、相手との見解の相違に対処するのはすごく苦手でした。行動もぎこちなく苦労していましたが、最初していた経営相談の仕事はやめて、飲食店を始めてからは成功したようです。その人なりの合った商売があるのかもしれません。どうも知的な仕事よりも、決められたことをきちんとこなす仕事が向いているようでした。


3. 自分の意思をはっきりとさせない部下

あなたは総務部総務課の課長です。総務課は文書管理や法務、広報、ISO推進などを担当しています。あなたは入社以来、人事や総務を幅広く担当し、半年前、総務課長に昇進しました。現在40歳です。あなたは、この数年、ISO取得などいくつかの全社プロジェクトの中心メンバーとして活躍してきました。当社は電機メーカーで、海外でのOEM生産などで順調に業績を伸ばしてきました。店頭公開している当社は株価も半年前の2倍以上になっています。あなたはこの勢いを活かして全社的に組織を刷新したいと考えています。

ところで、あなたには5人の部下がいます。法務担当の鈴木敦志(45歳)、広報担当の吉沢功治(38歳)、文書担当の須沢卓弥(35歳)、庶務担当の川原葉子(27歳)、関原美那子(26歳)です。総務課は各自が専門性の高い業務を担当しており、基本的にあなたは部下に権限委譲し、最低限の報告を求める程度にしています。ただ、須沢に関してあなたは多少心許なさを感じています。

須沢は大学を卒業後、当社に入社し、一貫して総務畑を歩んできました。須沢の実務能力は手堅く信頼できます。仕事上のミスも抜けもまったくありません。慎重で先行きまで配慮の細かい仕事ぶりは他部署からの評価も高いです。しかしながら、須沢は心配性でしばしば覇気のない表情をしており、些細なことを気に病んでくよくよするところがあるようです。保守的で新しいことを好まないところがあり、全社の改革の旗振りをしてきたあなたにはやや頼りない感じがしています。

もともと須沢はそういう人ではなかったという声もあります。噂では、あなたの前任課長である兼本喜代造(現在は上海事務所所長)が非常に高圧的で、意思表示のはっきりしない須沢を頻繁に怒鳴り散らし、そのため須沢は萎縮してしまったというのです。兼本は、女性二人とは楽しそうに歓談し、食事にもよく誘っていたようですが、須沢には手厳しく辛く当たったようです。何かにつけて須沢は攻撃の対象にされていたせいか、疲労感ありありのの憔悴した表情で、体調の不調を訴えることもあったようです。兼本は在任2年で異動したようでした。

あなたは今後の総務課を全社改革の中心にしたいと考え、何とか須沢と話し合っていきたいと考えています。1週間ほど前、話し合いの時間を持ちましたが、須沢は伏し目がちで自分の意見をあいまいにし、声にならない声をもらして終始、緊張気味でした。そして、そこに急な用件が入り、あなたは面談を中断せざるを得なくなりました。これから1時間ほどはじっくりと二人で話をしたいと考えているところです。

Q1.須沢のどこが問題ですか?
須沢はもともとの性格もありますが、どうも前の上司の高圧的な態度から一層控えめになり、積極的な姿勢が示せなくなっています。上司である、あなたは、どうも心許ないと感じています。

Q2.須沢の性格や資質特性、行動特性をどう分析しますか?
須沢は、気質的には「神経質」で内向的なほうです。神経質とは、気兼ねをしたり遠慮がちなのですが、あきらめがあり、心配性なのです。責任感が強く、自分の欠点についてくよくよするところもあります。
内向的で、関心がいずれかというと、自分の内面に向けられ、対人的な場面で自由に振舞えないところがあります。ついぎこちない態度や言動を取ってしまうのです。また対人緊張があるようです。これは行動特性に関してストレス耐性が弱いと捉えることがあります。
須沢のようなタイプは、ストレスに弱く、プレッシャーを受けると堪えてしまうわけです。しかし、持ち前の繊細さが長所となり、仕事は手堅く細部まで折り目正しく遂行されているわけです。

Q3.話し合いのポイントはどこにありますか?
須沢には自信をつけさせることが必要です。素直に自分を打ち出すことを折に触れてフィードバックし、エンパワーすることです。須沢には気に病んだり、不安に感じていることがあるはずです。それが何なのか、上司であるあなたが力になれることはないのか、話し合っていく必要があるでしょう。
実は須沢のような心理は誰にも多少はあることなのです。須沢においてはそれがデフォルメされているかもしれませんが、そういう気持ちはもっと一般的なものです。弱気さ、あるいは弱音を吐く、といった部分は誰しも壁にぶち当たったときに生じる自然な感情で、多かれ少なかれ、あるものです。なので、部下の状況を見て適宜ケアすることが必要かもしれません。こうした不安や弱気さが消極性を生むこともありますが、別な形で問題行動となることもあるからです。
Copyright© 2010 JEXS All Rights Reserved                                                                                     著作権/リンク | 個人情報保護方針 | お問い合わせ