株式会社JEXS
 ◆コンピテンシーを人事管理にどう活かすか ~コンピテンシー礼賛論は危険な罠となる~

寄稿先:隔月刊看護部長通信



注目集めるコンピテンシーは万能薬か?

コンピテンシーは、目標管理と並んで最近の人事改革のトピックスになっている。コンピテンシーが日本に紹介されたのは、97年ごろのことだが、注目度が増したのは98年以降のことである。さらにコンピテンシーに関して実務家向けに次々と出版が相次いだのは99年以降のことで、最近では議論は一巡し、先行的に導入した企業事例における反省や振り返りなどがむしろ論議されるようになってきているようだ。コンピテンシーの狂乱的なブームは、ある意味で、日本の人事マネジメントにおける目標管理の迷走と極めてパラレルだと思われるが、その期待度合いは目標管理よりもはるかに高く、まさしくバブル的である。

日本におけるコンピテンシーの定義は、「高業績者の行動特性」であり、その習得/開発が可能であることが強調されている。コンピテンシーを抽出するには、社内の高業績者に対して、普段取っている行動をインタビューするという行動観察インタビューが用いられるとされている。

ところが、米国ではどうなのか。比較的近著であるアーモッドの産業・組織心理学の教科書(Michael Aamodt "Applied Industrial/Organizational Psychology")を見ても、コンピテンシー(competency/competence)という言葉すら採り上げられておらず、コンピテンシーが米国HRMの標準的技法と認識することにはかなり無理がある。定義にしても、コンピテンシーとは、単に、KSAs、つまり、知識(Knowledge)、技能(Skill)、諸特性(Attribute)のことであり、高業績と関連付けた定義は必ずしも主流と言えないようだ。もちろん、通説があるわけではなく、クレンプによれば、コンピテンシー(Competency)とは、①「効果的で優れたパフォーマンスをもたらす人に見られる特性」のことで、②「動機、性向、技能、知識などの総体」からなり、③「本人も保持していながら気づいていないもの」である、という。これは、コンピテンシーに戦略的な意味合いを込めた定義といえよう。

もとよりはなはだ疑問は多いのだが、「米国企業を救った人事革命」とされる高業績実現の人事システムとして、コンピテンシーの地位は1998年から2001年にかけて急速に高まり、日本においては「コンピテンシー・バブル」とも言われる現象が生じた。つまり、コンピテンシーさえ導入すれば、人事システムは高度化され、戦略は実現し、ハイパフォーマーがクローン人間のように次々に登場してくるというのである。もしそのように展開していけば、企業の競争力はもちろん高まるだろうし、企業が目下直面しているリストラ/ダウンサイジングも嬉しいことに回避できるかもしれない。また当時、人事実務家が集まる人事系のセミナーなどもコンピテンシーという言葉が並ばないものはないほどだった。しかし、導入して数年を経てみると、企業環境の悪化で相変わらず業績はシュリンクし、ウルトラマン登場の神風が起こらないことに企業関係者は気づき始めた。つまり、ハイパフォーマーが突然変異で現れてくることはなかったのである。さらに、コンピテンシーの抽出とモデル化、そしてその導入だけによっては人事評価の納得性や客観性が飛躍的に改善されることもなかったのである。

このようなやや批判的な見方が今日ではコンピテンシーに関する共通認識となってきてはいる。しかし、なおコンピテンシーには、行動評価の指標として一定の意味があるし、望ましい行動のあり方を職員/社員に示すことにはそれなりの導入価値があるものと考える。具体的なサンプルをいくつか示しておくので、適宜参照し、自社の組織で導入を検討される際の資料にしていただきたい。本稿ではさらに、コンピテンシーの起源や発展経緯などについてこの言葉を初めて聞かれた方を意識して紹介していきたい。


コンピテンシー誕生とその発展経緯

そもそもコンピテンシーとは、公務員の採用選考で始まったものである。ハーバード大学の心理学教授だったマクレランド(David .C. McClelland)は1970年代、政府の依頼を受け、外務情報員に関する調査を行なった。それまでの採用試験では歴史や経済学などの試験が行なわれていたが、不思議なことにこの試験で上位の人は着任後あまり活躍せず、ギリギリで入ったような人がかえって活躍しているという実情があり、問題視されていたのだ。調査はインタビューによって実施されたが、このときに実施されたのが行動観察インタビューで、高業績者を中心に成功した/失敗したエピソードを語ってもらい、そこから特徴的な職務行動を拾い出すことだった。

この調査の結果からわかったことは、高業績者は、表情や声色などノンバーバル(非言語)なところで、相手の気持ちを理解できる人が活躍しているということだった。そこで、マクレランドは、言語の異なる人が自分の状況について感情を込めて語っているテープを聞かせ、それがどんな状況なのかを選ばせる試験を開発した。高業績の実在者はこの試験で非常に高得点を上げるのに対して、外務情報員として活躍していない低業績者は、この試験で成績を上げることはできなかった。この結果から、職員の採用試験ではこの音声での感情認知テストが実施されることになったという。

ここでのポイントは、特定の職務で活躍する人材に関する探索的調査によって業績成功要因を実証的に抽出したこと、そしてそれを実際に測定評価する技法を編み出し、採用選考に落とし込んだことである。今日、コンピテンシーといっても、職務ごとに実施されていないことが多い。それではあまり意味がないことになる。また実地調査することもなく、頭の中で考える理想の人材を思い描くことがある。これまた十分なことではない。さらに最も重要なことは、コンピテンシーがどんなものであれ、測定評価する技法を作らないと機能しないことである。

顧みて日本のコンピテンシー実務はどうか。全社共通のコンピテンシーを思いつくまま列挙し、人事評価の項目とするだけで高業績者が生まれると思い込んでいる企業が少なくない。しかし、そんなことは高邁な理想を書き込んで額に飾っているのと差はない。コンピテンシーを測定する手法もなく、その評価を現場の上司に丸投げしても、コンピテンシーを測ることはできようはずがない。

マクレランドの有力な後継者の一人であるボヤティズ(Richard Boyatzis)は1980年代になって、有能な管理職(コンピタントなマネジャー)に関する研究を行なった。日本では訳本もなく、それゆえに知名度も低いが、彼こそコンピテンシー概念を科学的かつ実務的に確立し、人事マネジメントへの革新的活用を提唱した最大のキーマンである。ゆえに、彼の書いた『有能な管理職』( Richard Boyatzis "The Competent Manager A Model for Effective Performance" 1982)という著作は、その後のコンピテンシー関連の研究では例外なくリファレンスされており、米国では長らく「コンピテンシーの神様」と呼ばれているほどだ。

ボヤティズは、同書の冒頭でアージリスによって指摘された「支持/採択された理論」(espoused theory)と「活用されている理論」(theory in use)について触れている。これは、スペンサーも引合いに出しており、コンピテンシーにおいて最も重要な基礎理論である。つまり、実際に行動として採られている活用理論がコンピテンシーの次元なのである。

ボヤティズは、マクレランドの「優秀なセールスマンは優秀なセールスマネジャーになるというのは神話に過ぎない」という指摘を踏まえ、事例に基づいて有能なマネジャーについて解説しているが、この中で、マネジメント・モデルが注目されている。その人がよかれと思っている行動規準や価値観ではなく、実際に行動として採られ活用されているところのマネジメント・モデルがどのようなものかが重要となるが、それを明らかにするために、いくつかの質問が示されている。

1. あなたがつい最近、人を採用したとき、あるいは誰かを抜擢しようと思ったときのことを思い出してください。そのとき、どのような人を選びましたか?価値を置いている特性によってその人を描写してみてください。もしその人の前職における経験に基づいて決めたのであれば、その経験においてどのような特性を持つと思ったのかを説明してください。
2. つい最近、マネジメントに関して誰かを評価したときのことを思い出してください。その人の行動や業績に関してポジティブに評価したこと、あるいは承認すべきだと思ったことを述べてください。また否定的なコメントをしたくなったことはどうですか?その人についてマネジャーとして将来どうなのか、その評価はどうですか?
3. つい最近、ミーティングでどうだったか思い出してください。ミーティングではどのようなスタイルを取っていますか?そのスタイルは、なぜ適切である、ないし効果的であると感じていますか?不適切ないし効果的でないと思う場合もそれもなぜですか?
4. つい最近、効果的に葛藤状況を解決したときのことを思い出してください。そのとき、マネジャーはどのようなスタイルを取りましたか?そのステップを説明してください。
5. もしマネジャーの立場であれば、つい最近、あなたが取り組んだ優先順位の変更について思い出してください。優先順位の変更はどのようにして生じたのですか?

このような質問によってボヤティズはコンピテンシーを把握しようとしたが、言い換えると、それは行動パターンのようなものであった。境界的コンピテンシー(threshold competency)とは、元来備わっている知識やスキル、性格特性やセルフイメージ、社会的役割のうち、職務を遂行する上で重要なものをいうが、必ずしも優れた職務パフォーマンスに結果的に関連するものではない。これに対して、平均的な者と比べて優れたパフォーマンスを生み出す差となる特性を真性コンピテンシー(competencies)というとしている。このようなコンピテンシーの捉え方は、スペンサーにも継承されている。スペンサーは、ヘイ/マクバーのトップにもなった気鋭のコンサルタントであり、独自のコンピテンシー・マネジメントを確立したといわれている。コンピテンシーの活用についてより体系立った方法を示し、コンピテンシー・マネジメントは一応の完成を見ることになった。コンピテンシーは、統合的なHRMの中心に据えられ、採用選考のみならず、人材開発や配置、処遇決定などの人事管理全般の活用場面に援用されるべきものとされたのである。

スペンサーは、20ほどのコンピテンシーを設定し、これを6-8段階程度にレベル設定し、実在者のコンピテンシーレベルを評価するという手法を示した。レベルの確定には行動インタビューを行なうものとした。しかし、コンピテンシー活用場面を拡大し、人事マネジメントの中心と位置づけた考え方がやがてコンピテンシー・マネジメントを破綻させてしまうことになった。

スペンサーの主張するコンピテンシーを中心に統合HRMシステムとして展開するアプローチに対しては批判が集まった。とりわけコンピテンシーを処遇決定と関連付けることについては否定的な論議がなされ、最終的にコンピテンシーは今日の米国の人事実務においてマイナーな位置づけしか得ていないのである。しかも、米国でほとんど顧みられることなくなった段階で日本に米国型人事マネジメントの切り札のように紹介されたことに悩ましさがあるといわざるを得ない。さらに米国におけるコンピテンシー活用状況に関する調査がある。これらによると、コンピテンシーはそれなりに活用されているが、人事システム全体のフレームワークになっているわけではないようだ。

コンピテンシーに関する主な調査としては次のようなものがある。いずれも、コンピテンシーの活用に関して、日本の実務が処遇優先で逆立ちしていることを物語っている。

〔米国における主なコンピテンシー調査〕
1.シャスター・ジングハイム(Shuster=Zingheim 1998)
どこの企業でも項目はほとんど同じで、コンピテンシーによって競争優位が生じるわけではない。この概念には市場性がなく、報酬決定の基準には困難である。
2.スクノバー(Schnoover 2000)
採用選考や訓練開発にはよく使われているが、報酬決定には極めてマイナーで、少数の活用している企業も満足しているとは答えていない。
3.ブリスコー・ホール(Briscoe=Hall 1999)
高業者へのインタビューは実施されておらず、入手可能なリストから適当にアレンジして作成するケースがほとんど。自社なりの戦略や価値観を表現するための組織内共通言語としては意味を持つが、人事評価基準というわけではない。むしろリーダーシップのあり方を示すものとして扱うべきである。

このようにコンピテンシーを紹介、解説すると、筆者は人事コンサルタントをしながら、あたかもコンピテンシー否定論者であると指摘されることがあるが、そうではない。どうもコンピテンシーを手放しに礼賛し、それさえあれば大丈夫という万能論のほうが一般受けはいいようだ。しかしながら、そんな脳天気な主張をする人は米国の実務書やコンピテンシーについての解説書をほとんど読んでいないといって過言ではない。知らぬが仏というが、人事労務問題はそもそも経営成果の分配論であって、どんな考え方が出てきても労使双方が大満足とはなりにくい性質のものである。

コンピテンシーは本来、採用選考や人材育成モデルとしては十分な意義を持っている。少なくとも、処遇決定の主たる基準に添えることには無理が多いというに過ぎない。またコンピテンシーを語る前に行動心理学や心理統計では、資質特性というものを長年にわたり研究し、人材ロス低減に寄与させてきたという経緯がある。そのような蓄積を度外視してコンピテンシーを万能のように扱うことには無理がある。つまり、限定的にコンピテンシーを捉え直し、概念設定すれば十分に人事上の問題を解決できる可能性があり、そのほうが現実的であると考えることができるのだ。また期待基準を示すことは以前から日本の人事実務でも行なわれてきた。高業績者の行動パターンを参考に好ましい行動パターンを記述し、組織の指標/ガイドラインとすることには一定の意義があるものと考えてよいだろう。

日本では当初から職能資格制度を再生する手法としてコンピテンシーが持てはやされた。当初からその位置づけは、既存の人事システムである職能資格制度を補完するものとして議論されたのだ。それほど職能資格制度をどう護持し、できるだけその延長線で人事処遇のシステムをトータルなものとして運用するかということは日本の人事実務家にはある種の強迫観念のようになっているとさえ思われる。「評価、育成、処遇が三位一体となったトータルなシステム」でなければ、適正な業績評価も人材育成も納得の行く処遇も立ち行かないということは独特の呪縛のようになっているのだ。そのため、人事評価を語るとき、即座に賞与や昇給の査定への反映が取り沙汰される。そうしないと、制度的に組み込めないというのである。コンピテンシーの取り扱いとて例外ではなく、実務家の関心はそれがどの程度のウェイトで処遇にリンクさせるかに驚くほど集中しこの論点に執着する。

しかしながら、コンピテンシーは人材育成や業績・成果を向上させる行動指針となるべきものであり、人事考課の中心となるものとしてそもそも開発されてきたものではない。そのことは米国の取り扱いを見れば明らかである。また一方、そもそも職能資格制度の行き詰まりは年功主義の限界にあったわけで、能力評価のあいまいさはその運用にはむしろ不可欠の要素だった。コンピテンシーを能力評価に代替ないし補完すればクリアな評価が実現でき、職能資格制度が蘇るとする主張がある。しかし、そこには論理的な破綻があって、木に竹を継ぐ以上の決定的な誤謬がある。つまり、背景が根本的に異なっているのである。

今日、コンピテンシーは、行動評価の項目として取り扱われ、かつて企業が用いてきた情意考課や能力考課の項目を代替するものと考えられつつある。これは、情意考課にある規律性、責任性、協調性、積極性といった項目が陳腐化してきたこと、能力考課を適正に行なうためには、膨大な職能要件書や職務基準書を作らないといけないが、これを作成することもメンテナンスすることが容易ではなく、多くの企業ではすでに虚構化している。そうした背景があって、このような人事制度の陳腐化と虚構化に対処する画期的な手法としてコンピテンシーが期待し注目されたのである。つまり、新時代に対応する行動指針を示し、比較的簡素な作成手法で人事管理制度を再構築されるというのである。少なくとも、企業によってあるべき行動規準は異なると考えられるので、行動指針としての意義は決して小さくないように思われる。ただ、既存人事システムの行き詰まりの打開策にコンピテンシーがあったことは日本的な独自の現象として無視できないだろう。北米の実務ではコンピテンシーは主に採用選考の基準であり、人事処遇システムの中核にコンピテンシーを取り上げる事例は皆無と言っていいほどである。


コンピテンシーを具体的に実務でどう取り扱うか

コンピテンシーについて米国での状況や日本での迷走について解説してきた。では、実務的にコンピテンシーをどう扱っていくか、次にこの点を解説していきたい。

組織は必要に応じて人材を採用し登用していくという流れがある。例えば、新人を採用しても十分なレベルで活躍するのは3割そこそこで、7割近くは停滞してしまうか、離職してしまう。そこで、人材ロスをどうやって減らすかが重要な組織課題になる。その場合に、コンピテンシーの発想が役に立つ。つまり、組織の期待する人材要件を明確化し、それに見合った人材をなるべく採用することで、活躍確度の高い人材を集めようとすることだ。しかし、活躍度合いが完成度に高い人材は外部から得にくいのが通常で、内部育成方式を採ることの多い日本では外部労働市場から即戦力人材を引っ張ってくるというのはあまり現実的ではない。仮にそんな有能な人材がいても、既存の組織のメンバーと融合しないことも少なくない。そこで、十分な資質特性を持った人材を採用していくことが実際的なアプローチとなる。

組織は実在するメンバー(職員、社員など)に期待する行動や態度などを示すことで、より好ましい方向性に向かっていくことができる。期待要件の明確化はもとよりコンピテンシーが登場する前から行なわれてきたが、コンピテンシーについての研究が進み、明示する期待要件の整理がなされるようになってきたと思われる。つまり、期待はいろいろするものの、それが習得可能なものなのか、一定の訓練によって開発可能なものなのかということである。忘れ去られがちだが、期待要件には習得/開発ができないものも少なくない。もちろん、習得や開発が比較的容易なものもある。習得/開発可能性を織り込んだ期待要件の明示こそ、コンピテンシーの理論的成果である。

組織は業績や成果の獲得を目指している。そのためにはそれにふさわしいリテラシーが必要となるだろう。職務に必要なスキルや知識を習得するには資質特性があればよいわけだが、そのような概念設定だけでは職場で採るべき行動は十分にイメージしにくい。そこで、コンピテンシーを示すことで、組織のメンバーに望ましい行動や態度を示し、好ましい風土形成を醸成することが可能となる。
組織は戦略を展開し競争優位を確保していく。その場合、戦略やビジョンを落とし込んで具体的なミッションや方針、施策にすることになる。コンピテンシーだけではなく、それはBSCやISOその他の経営手法で示されることになるが、戦略展開としてもコンピテンシーには一定の意義があるだろう。

組織には本来活躍するはずの人材が参画してくる。しかし、人材の多くは期待基準に達しないまま脱落してしまう。それは必要条件としてのコンピテンシーが不足しているためというより、むしろ本人がチーム志向でなかったり、思い上がって傲慢になって周囲との関係を悪化させてしまうことから生じてしまうものだ。そこで、気づきを与えて、本人に行動や態度を振り返らせる仕組みが必要となってくる。この場合、コンピテンシーだけではなく、ディレールメントという考え方も織り込んでいくべきであろう。具体的には360°フィードバックのようなものがある。これは上司だけではなく、同僚や部下からのフィードバックを実施するものである。米国では多くのツールが開発されているが、日本でもいくつかのツールが提供されている。

コンピテンシーの活用パターン
1. 人材基準型:人材ロスを低減するためのアセスメント基準/人材特性評価基準として示し、活躍しやすい人材モデルを示し、ロス率を低減していく。
2. ベンチマーク型:高業績者/ハイパフォーマーの行動をモデル化し、ベンチマークすることで、習得すべき期待要件や行動指針が示される。
3. 組織バリュー型:高業績を生み出す組織文化を醸成し、組織としての価値観を示す。
4. 戦略志向型:企業が目指す戦略をブレークダウンした方針や目標、戦略実現にとって望ましい行動パターンを規準として示す。
5. 気づき促進型:本人に気づきを促し、行動や態度を修正させ、望ましくない要因を低減、除去し、本来の活躍を実現していく。


人事処遇とコンピテンシーの関係はどうするか

コンピテンシーについて解説してきたが、具体的には給与や賞与はどうすればいいのかという疑問を持たれるかもしれない。何らかの方法で給与や賞与は決めないといけないだろう。ここでコンピテンシーは役立つはずではないのかという疑問を持つ人もいるかもしれない。少なくとも筆者が講演をすると、このように質問をする人が出てくることが多い。しかし、そもそも処遇体系を決めるためのものではないということを確認しておきたい。

今の処遇体系がどうなっているのかにもよるが、年功的に傾斜の大きい仕組みはなるべくフラットにし、成果や働きぶりに即した処遇体系に移行することがトレンドになっている。人件費をコントロールし、インセンティブ性の高い仕組みを考えないといけないというニーズも高い。いわゆる成果主義に即した仕組み作りということである。それはそれとして人事処遇システムを整備していくことが望まれるだろう。ただ、強調したいのはコンピテンシーをモデル化しさえすればそれでそのようなものが体系化され、自動的に運用可能になるわけではない。つまり、人事処遇システムの整備は必要だが、コンピテンシーはその一部の役割しか果たさないものなのだ。電子レンジは便利だが、掃除機や洗濯機としては使えないのと同じである。

またいろいろといわれているが、コンピテンシーという言葉に拘泥せず、成果に結びつく行動や志向性、態度などについてそれが報酬の対象となるべきものであれば、それらを成果行動として報酬の対象にしてはどうかと筆者は考えている。成果主義賃金が主唱される中、しばしば個人単位で達成した業績や成果を見つめ、チーム単位、部署単位から切り出して計測しようとする傾向が強まっている。もとより低業績者(ローパフォーマー)、無業績者(ノーパフォーマー?)を組織の中に埋没させ、フリーライダーのまま寄生させるべきではないかもしれない。しかし、組織全体や部署、チームの活力を犠牲にしてまで個人単位の成果を切り分けることに走りすぎていないだろうか。そんなことも考えながら、報酬論を自社なりに見つめてみるべきだと考えている。

規制緩和、自由化の進む医療界ではこの数年、急速に人事改革が進んでいる。筆者もそのような相談を日常多く受けている。病院や施設で人事考課制度の見直し、整備が本格的に進んでいくのはまさしくこれからである。その新しい制度構築において誤った「常識」に依拠して道を間違えることのないように、また他産業での「人事改革」を他山の石とされるように、と切に願っている。なぜなら、医療界には間違いは千にひとつも許されないからである。

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